蜂蜜のような君

2003年2月3日
午前5時 君はそっと あたしの家を去った。

残ったのは、

君が忘れていったプレステのソフトと

君と聴いたSpitzの『ハチミツ』と

君に2日間愛された あたし。

“一人空しくビスケットの しけってる日々を経て
 出会った君が初めての 心さらけ出せる”

から始まる歌たちを、一人になった部屋で流す。

あまりに当時の空気を再現するから、
あたしはいつでも泣きそうになる。

当時15歳だったあたしを虜にした音楽。

ジャケット・デザイン・写真・詞・アレンジ・歌・プレイ。
すべてがパーフェクトなアルバム、『ハチミツ』。
今でも、Spitzの最高傑作はこれだと思う。

作品のクオリティだけじゃなくて、そこには、あたしの当時のココロが詰まっているから。

今ではこういう、いわゆるギターポップは聴かなくなってしまったけれど、だからこそいつまでも、当時聴いた耳触りの良いギターポップ達は、色褪せることなくかつての色彩を放ち続ける。

「昔の懐かしい歌が聴きたい」と言って
君はあたしのCDラックを漁り、
奥のほうからこのアルバムを取り出してきた。

君とあたし。
お互い、高校時代は存在を知りもしなかった。

『ハチミツ』を一緒に聴いたけれど、
その中に詰まる想いはそれぞれ違う。
だけど、想いが詰まっている事自体は一緒。

同時に聴くメロディーの中で あたしたちは
それぞれ違う方向を眺めた。懐かしく。
あたしの 君の 過ぎ去った場所を。

数年経って、久しぶりに聴くときが来たら、
君とあたしが一緒にこのCDを聴いたということが懐かしく思い出されるだろう。

その時、一緒に聴く相手がもし君だったら、ようやく君とあたしは、同じ場所を眺めることができるね。

“だって 信じることは間抜けなゲームと
 何度言い聞かせたか 迷いの中で
 ただ 重い扉 押し続けてた”
            (あじさい通り)

―今、ココロに痛く刺さるフレーズ。
彼らに夢中になっていた頃は、まだその歌詞の本質を解することができず、ただその流れる綺麗なメロディーと、文学的でキュートな言葉遣いという、表面的な事項にのみ惹かれていた。

ポップな言葉とメロディーの裏に隠された
痛いまでの 切ない想いたちを
あたしは その後 何年も経ってからようやく知る。

“だって 信じることは間抜けなゲーム”

それを本質的に実感してしまった時が来て、

そして、

もうそんな事を思わなくてもいい時もまた
時節を幾らか繰り返した後にやってきた。

“素敵な恋人 ハチミツ溶かしてゆく”

―固まってたハチミツを溶かしてゆくのは
          紛れもなく 君

そしてそれは

あたしの胸の中にゆっくりと広がって

甘く 素敵な その黄金の 流動体は

あたしの指先まで浸透して 輝き出す

それは 君。

蜂蜜のような君。

午前6時 あたしはそっと 微笑んだ。

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