最後のキス

2003年11月12日
一年半ぶりの再会の翌朝

オフピークタイムの
がらんとした
地下鉄のホームで

ベンチに隣同士に座った男女
一言 三言交わしながらも
視線は交わさず反対側のホームを見つめる

「これほどの距離がなければ付き合いたかった」

男はその言葉を口に出し
女は口に出さずに留めたけれども

距離がなければ良かった
などとは思わない
むしろ あって良かった
と女は思った

二人を隔てる距離があったからこそ
こうやって 穏やかに朝を迎えていられる

所詮、おたがい
距離を超えるほどの想いなど初めから無い

次に会う約束も無い

次にいつ会うことか
きっと
もう生涯会わないかもしれない

「また会えたらいいね、そのときは…」

などと、来もしない『その日』について夢語りしながら
キスをしたい と、思った

本能的に欲望が溢れた
決して愛情ではなく、動物的に思い浮かんだ。

その発想について、
それは
次にまた会いたいという間接的な意思表示なのか
それとも
再会はないだろうという予測の元のピリオドなのか

女は自分自身に問うているうちに
電車がやってきて
反対側のホームへの視界が遮られて

結局それが何だかわからないまま
終わった。

それこそが
きっと その男女の関係の全てだったのだろう。

と 女は思った。

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