冬の記憶

2007年11月23日
クスクス笑いながら スニーカーを上履きに履き替えて

長い影を延ばして 夜の学校に忍び込む

足音が響く静寂 昼の明るい世界とはまったく別の姿

真っ暗な教室

真っ暗な体育館

真っ暗な校庭

真っ暗な図書室 

こっそり手に入れた秘密の鍵で、夜しか見せない姿を覗く

カチッ コチッ…

時計の秒針の音 きしむ床板

嫌いな教師の机上に花瓶を移して忍び笑い

音楽室で そっとピアノの鍵盤に触れる

ポーン…!

驚くほど巨大に響いて、思わず顔を見合わせる

渡り廊下で追いかけっこ

冬の空気に白い息が吐き出されて広がる

校庭の鉄棒の下の砂場にしゃがみこんで

「ここが砂浜だとしたら、広い校庭は海だよね」と想像ゲーム

手のひらを左右に動かし、体育座りした足もとの砂で遊びなら
とりとめのないお喋り

手と手が 不意に触れ、

沈黙

それから、ゆっくり、顔が近づいた。

月が顔を正面から照らし、
彼のまつ毛の長さを初めて知った。

時間が止まったように思えたけど

長かったのか 短かったのか ただ動悸しか覚えていないけれど

顔を離して 照れ隠しに空を見上げたら

天高く 満月がオレンジ色に淡く灯っていた

15の冬の密やかな遊び 

年末で転校してしまう人の最初で最後の誘い

親には内緒で抜け出して過ごした夜

唇の感触だけ残して彼は消えた



今。
厚手のコートと手袋がなければ朝の出勤と深夜の帰宅が辛いほど、急に冷え込んできた最近の温度に、ようやく本格的な冬の到来を感じ、頬をよぎる外気の冷たさに、あの夜の記憶は鮮やかに蘇る。

あの砂場で語った
約束のショパンを弾いて聞かせることはできなかった

失って知る かけがえのない時間

二度と戻らない 時間も年齢も彼も私も

あの夜の空間すら、この秋改築されて

永遠に消えた

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