渡せなかった手紙
2008年3月10日今日は妙な夢を見て目が醒めた
学生の時分のような手のこんだ装飾を添えた手紙を
本人ではなく 本人の上司のデスク上に
彼に手渡して欲しいというメモとともに置くが
上司は出先からデスクに戻ってくると
何とその手紙を無遠慮にも開封しているのが見えて 驚き
焦って走って近づくと その手紙は
私が書いたものではなく 別部署の女性のもので
しかも その女性は 気持ちを隠し通していた私とは違って
彼に常日ごろから浅ましいほど好意を見せていたのだった
そんな彼女と そんな私が まったく同じ手段
封筒・便箋すら同じもの
急にすべてが馬鹿らしくなり
その手紙の下に重なっていた私の手紙を抜き取り
もういいです と言い残して去ろうとすると
上司は そうか、と無責任に哀れみをこめた同情で微笑んだ
しかし その笑顔がやけに魅力的で 不本意にも思わず心臓が鼓動し
浅ましいのは自分ではないかと
そう思うのは目が醒めた後のことで 夢の中では心奪われている
夢から醒めれば 夢の内容に我ながら呆れつつも
色鉛筆で彩った手紙だけが やけに眼の裏に焼きついている
そういえば と ふと思い出す
高校生の頃 通学電車で見かける他校の先輩に想いを寄せ
その人が大学受験で間もなく その電車にも乗らなくなる時期
もう二度と会えなくなるのなら と思い切って
この名も知らぬ人へラブレターなるものを書いて渡したこと
手紙を書こうと思い立ったのも そう今日のように
風邪で熱があった日だった
熱に浮かされると 人間の脳は思考力が落ちる
落ちるのか 恥を失うのか とにかく理性が吹っ飛びがちである
10年経っても同じ思考回路で 馬鹿か私は、いい歳して
と 自分で自分をあざ笑う
あの時の手紙 名も知らぬ人は 今でも持っているだろうか
それとも とうに捨てたかな
どちらでもいい
恋をしていた彼のことは消えて 彼に恋をしていた自分のことだけがくっきりと残っている
しかし 私の中の彼は 今でも詰襟姿の学生さんだ
もうすぐいなくなるあの人も
夢の中ですら 理性が勝って手紙を渡すこともないけれど
こうして 私の中で
10年経っても 20年経っても
好意の対象だった彼の存在は消えて 彼に好意を寄せていた自分の日々だけが色濃く残るだろう
そして その中で 彼はいつまでも
瑞々しい肌と若々しい笑顔のままで
学生の時分のような手のこんだ装飾を添えた手紙を
本人ではなく 本人の上司のデスク上に
彼に手渡して欲しいというメモとともに置くが
上司は出先からデスクに戻ってくると
何とその手紙を無遠慮にも開封しているのが見えて 驚き
焦って走って近づくと その手紙は
私が書いたものではなく 別部署の女性のもので
しかも その女性は 気持ちを隠し通していた私とは違って
彼に常日ごろから浅ましいほど好意を見せていたのだった
そんな彼女と そんな私が まったく同じ手段
封筒・便箋すら同じもの
急にすべてが馬鹿らしくなり
その手紙の下に重なっていた私の手紙を抜き取り
もういいです と言い残して去ろうとすると
上司は そうか、と無責任に哀れみをこめた同情で微笑んだ
しかし その笑顔がやけに魅力的で 不本意にも思わず心臓が鼓動し
浅ましいのは自分ではないかと
そう思うのは目が醒めた後のことで 夢の中では心奪われている
夢から醒めれば 夢の内容に我ながら呆れつつも
色鉛筆で彩った手紙だけが やけに眼の裏に焼きついている
そういえば と ふと思い出す
高校生の頃 通学電車で見かける他校の先輩に想いを寄せ
その人が大学受験で間もなく その電車にも乗らなくなる時期
もう二度と会えなくなるのなら と思い切って
この名も知らぬ人へラブレターなるものを書いて渡したこと
手紙を書こうと思い立ったのも そう今日のように
風邪で熱があった日だった
熱に浮かされると 人間の脳は思考力が落ちる
落ちるのか 恥を失うのか とにかく理性が吹っ飛びがちである
10年経っても同じ思考回路で 馬鹿か私は、いい歳して
と 自分で自分をあざ笑う
あの時の手紙 名も知らぬ人は 今でも持っているだろうか
それとも とうに捨てたかな
どちらでもいい
恋をしていた彼のことは消えて 彼に恋をしていた自分のことだけがくっきりと残っている
しかし 私の中の彼は 今でも詰襟姿の学生さんだ
もうすぐいなくなるあの人も
夢の中ですら 理性が勝って手紙を渡すこともないけれど
こうして 私の中で
10年経っても 20年経っても
好意の対象だった彼の存在は消えて 彼に好意を寄せていた自分の日々だけが色濃く残るだろう
そして その中で 彼はいつまでも
瑞々しい肌と若々しい笑顔のままで
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