遭難

2008年3月26日
先週まで蕾だった桜が、いつの間にか満開になっている。

そして、事故。

彼に遭ってしまった。

交差点の夜桜の下で。

そう、「逢った」ではなく「遭った」だ。

-----

広いフロア、多層階のビル ですれ違った日々。

会わない日のほうが多いし、偶然会えば驚いたし、

そんな環境で、もうこのまま会わずに済むと思っていたのに。

-----

面と向かって「さよなら」と言ったのがつい先週で、

このままあと幾日かで、弥生を終えて 永遠のお別れ。

そういう覚悟で今月を生きてきたのに、

すり減らした寿命は、無駄だったというわけ。

こんなふうに遭うなんて―――むなしい。


-----

メールでいつも「会う」を「逢う」と書いた貴方。

私、それだけはずっと厭だった。

「会いたい」も「逢いたい」と書かれれば意味が変わる。

どんなに仕事が多忙で、責任を思えば到底抜けれない時でさえ、

「逢いたい」という文字を見れば、無理矢理にでも抜けざるを得ない、

麻薬なように甘やかで魅惑的なこの字が、ずっと厭だった。

-----

おあつらえの夜桜の下、信号の点滅はスローモーション、
人々の声や行き交う車の音、街の喧騒も、遠い遠いBGMと化す。

(やっと、逢えたね。)

(……。)

(俺のこと、避けてたろう?)

(……。)

(せっかくだから、、、。)

(…家に帰らなきゃ。)

(まだこの時間だし、いいだろう? ―最後なんだから。)


その瞳で言う、罪。

―最後なんだから。

―最後、なら……

-----


私は意志が弱い。


-----


もしくは、あなたの肌が 指が 唇が 瞳が 魅力的すぎる。


-----


「最後だから」「最後だ」「最後ね」。


何度つぶやいたか「最後」。

それは次第にささやきとなり、違う意味を帯び始める。

―いけない。これ以上は。

-----


腹を満たし、欲を満たす。何度も。


-----

遭難。

私の心が、遭難している。


決心の後に遭ってしまって、

一体、どうやって。

どうやって、無かったことにすればいいの?


-----


逢いたくなかったのに。

遭ってしまった

嵐。

もしくは炎。

突然、炎のごとく。

それはトリュフォーだけど。

つむじ風を歌ったのは、ジャンヌ・モロー。


-----


まぶたの裏が真っ赤に燃えている。

熱い血汐、

今、生きている、と強く実感した。


-----


―破裂、そしてまた破裂―


-----

ああ、何もかも。

何もかも何もかも。無かったことになればいい。

あなたも、私も、あの人も、すべて。無かったことに。

-----

そう思えるまで、体にそう覚えさせるため、そう感じるまで、

何度も何度も何度も、ああ、もういらない、と思えるまで。

遭難した。

-----

血液はすべて流れ出て、私の身体の中には今何も残っていない。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索