桜の樹の下には

2008年4月1日
桜の樹の下には屍体が埋まっている!

これは信じていいことなんだよ。

何故って、桜の花があんなににも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。

俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。

しかしいま、やっとわかるときが来た。

桜の樹の下には屍体が埋まっている。

これは信じていいことだ。



お前、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、

一つ一つ屍体が埋まっていると想像して見るがいい。

何が俺をそんなに不安にしていたか、お前には納得が行くだろう。



俺には惨劇が必要なんだ。

その平衡があって、はじめて俺の心象は明確になって来る。

俺の心は悪鬼のように憂鬱に渇いている。

俺の心に憂鬱が完成するときにばかり、俺の心は和んで来る。



――お前は腋の下を拭いているね。冷汗が出るのか。

それは俺も同じことだ。何もそれを不愉快がることはない。

べたべたとまるで精液のようだと思ってごらん。

それで俺達の憂鬱は完成するのだ。



ああ、桜の樹の下には屍体が埋まっている!

(梶井基次郎/1927年10月)

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