浴衣と電車

2008年9月3日
お盆に着た浴衣をクリーニングに出していたものの、
相変わらずだが毎晩残業で、取りに行くこともできず
ずっと店に放置していたのを、今日ようやく回収した。

実家にいた頃は、アルミの盥に水を張って母が手洗いをしてくれていたのに。
裏庭で陰干しされ、風に揺れる浴衣を乾くまで眺めるのが好きだった。

そんなことを思い出しながら、紺の花鳥の浴衣を眺める。

これを着たあの夜のことは、すべて忘れなければいけない。

夜が明けて朝が来たら、互いに元の生活に戻るのだと約束したのだから・・・

電車の中で繋いだ手と手。

二人が通学で使っていた地元の電車は、
車に乗るようになってからは彼にとって無縁で、
ほとんど実家に帰らない私にとっても無縁で、

つまり二人にとって疎遠になったあの電車は、
二人の中では時が止まった存在で、
高校時代の記憶を再現するのにあまりに適した空間だった。

「ここにいる間は、“今”じゃない。10年前よ。」

「私が触れているのは、“今”のあなたじゃなくて、あの頃のあなたなの。」

そんな手管に導かれて、

彼は、“今”でなく昔の想いを遂げ、
私は、昔でなく“今”の想いを満たした。

ねじれている。

だから、「涙」するのは、当然私のほうだった。

電車から降りるとき、躊躇して振り向く彼に
なんのためらいもなくその背を押したのは私なのに、
あの電車から降りた今でも、うまく現実に戻れずにいる。

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