女ともだち

2010年7月6日 エッセイ
久しぶりに、中学時代の女ともだちと会って、飲んだ。

学生時代の友人と会えば、記憶のまま時空を自在にたゆたうことができる。

彼女と知り合った14歳から現在に至るまで約15年ほどの年月を共有し、
積もる話はその月日をいったりきたり。

そんな中で、彼女が「いつ」との前振りもなく唐突、
「モモコが○○湖に連れていかれたことがあったよね、」
と言い出した。


…いつ、誰と、どうやって? いろんな疑問接頭語が脳内にうずまき、
それからふと符号が合う記憶が蘇り、「あっ」と私は声を上げた。

それは、23歳のときのこと。
彼女の知人の紹介で、ある男の子と知り合った。
なんとなくボーイフレンドの一人として付き合っていた、2度目のデートで
行き先を告げない彼の車で遠くまでドライブをし、
私は某有名な湖へ連れていかれた。


彼女は、そのことを言っていたのだ。
今でこそ、年齢相応の警戒心を身につけた私だけれど、
その頃は、とりあえず相手の身元がはっきりしてさえいれば、
どこへでもついていっていた。


   * * * * * * * * * * * * * *


夜の湖には、静かな波の音がして、しばらく無言の散歩。
彼がやけに無口になってしまったので、
私もなんだか喋りづらくなって、黙っていた。
岩だらけでおぼつかないサンダルの足取りを心配した彼が、私の手を取って、
それで、私たちは、初めて手をつないだ。

「あの岸に見える灯り、僕の家なんだ。」

彼の実家は、そのあたりでは有名な旧家で、
湖の対岸でさえ灯りが見えるほどの、家、というより、屋敷だった。

私は、下宿住まいの大学生であるということしか知らなかったので、
“お坊ちゃん”だということに驚いたが、同時に、
彼のやわらかくも少し内気な物腰について、納得した。

その後、月明かりの下で抱き寄せられて、唇を重ねた。
育ちのいい人のぎこちないキスは、勢いがよすぎて歯が当たった。



これから恋人になる女の子に、自分の故郷を見せたいと思ったのだろうか。
その子との初めてのキスは、自分の親しんだ湖のそばがいいと思ったのだろうか。

でも、ロマンチストの彼は、リアリストの私には、物足らなかった。
その頃の私は、純情で経験不足な男より、少し擦れた手だれのほうが好きだった。
多分、私と彼では、あまりに“育ち”が違ったのだ。



   * * * * * * * * * * * * * *


女ともだちのその一言から、当時のことをぼんやり思い出していると、
彼女が、
「あの彼、今、○○病院で外科医やってるんだって」と言った。

一介の医学生だった彼も、今や、立派な医師になってるだなんて、
感慨深い気分になった。
きっと、育ちのいいお嬢さんと交際しているか、結婚してるんだろうなぁ。


   * * * * * * * * * * * * * *


子犬みたいな目をして「来週から2週間、教授について○○で学会があるから、
帰ってきたらまた会おうね」と言ってくれたけど、
あの頃の私は、2週間なんて、とても待てる時間じゃなかった。

手に入らぬ人をもう2年も待っている今の私には、考えられないことだけど、
これもまた、月日なのだろう。
人はいくらでも変わる。


女ともだちは、私のそんな胸中を知らずに、次の話題へ移っていった。

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